楽曲評価:
1.あてのない世界 85点
アカペラのコーラスから始まる曲。サビまでは淡々と進むメロディーが、サビで一気にリズミカルになるのが印象的。
2.キャロラン 100点
弦楽器を取り入れたバンドスタイルのポップ曲。同一旋律の繰り返しであるAメロからまたドラムとメロディーの交ざったリズムが面白いBメロに続き、その後に入るサビは秀逸。ボーカルLumiの伸びやかな声質はメロディーの持つスケール感を増幅させ、聞き手に爽やかな印象を与えている。
また曲の最後がサビでなくAメロで終わるのは面白いと思う。
3.final your song 100点
サビまで落ち着きのあるメロディーが続く。そこでLumiの歌唱は切なさを含んだ細めの歌唱になっている。しかしそれが一転して、歌詞「世界中に響きわたれ」の通りに大きく広がりのあるメロディーに忠実に、芯の強い歌唱に変わるあたりはお見事。ボーカルのマルチさが伺える曲。
4.cloudy crowd 85点
笛とアコースティックギターが主に彩る曲。全体的に淡々としているのでやや間延びしているが、2,3とある意味濃い流れで来ているのであえて正解といえるか。
曲自体はそこまで凄みのあるものではないが、一般的には良曲の部類。
5.夢見るジョニー 95点
アカペラから一転、厚みのある音が主張し、高音が多用されたメロディーと合わさっていく曲。展開はかなり変則的で、また間奏部などのインストの部分ではなんとも形容しがたい展開美があり、それはプログレと称されるものに通ずると思う。編曲の妙が生きている。
6.線香花火(アルバム・ヴァージョン) 90点
弦楽器とアコースティックギターを上手く混ぜた、日本的な情緒を感じさせるスローバラード曲。この曲でのボーカルはもっとも繊細であり、切なさを醸し出している。
7.Lifetime is Ragtime 90点
スタッカートが生きているリズミカルな曲。この曲でのLumiの歌唱は決して雑になることのない跳ねたものであり、なんとも上手く歌えていると思う。
8.ライトフライヤーフライ 95点
メロディーごとに音が増していくスケールのある曲。単調ながら、タイトルコールやDメロが上手く飽きさせずに配置されている。
9.言葉ひとつ 95点
ぱっと聴くと2箇所あるサビの展開が秀逸。日常的な歌詞を、切なさいっぱいのボーカルが痛く鋭く伝えてくるのが印象的。
10.終わらない唄のクロニクル 90点
軽めのアレンジが施されているこの曲は、ゆったりとしながらも部分ごとで各楽器が主張している。また伸ばす部分が多いので落ち着いて聴ける。前と後ろの曲を考えるとこの配置は正解であり、「言葉ひとつ」からこの曲への流れはアルバムの中で際立って良いと思う。
11.千年樹 100点
和楽器を取り入れたアルバム内ではヘビーなアレンジと歌詞の世界観が融合することで、ドラマティックで緊迫感のある曲に仕上がっている。何より、曲の構成に関わるものの交ざり具合がとても高度であり、それによりもたらされるものはダイナミックな曲想である。もっともプログレ的といえる曲であるが、これを越えた曲が出れば一層強くなれると思う。
12.七つ目の海 95点
淡々とした低音中心のメロディー部から徐々に音が重なっていき、2番(という表現は展開的に適切ではないが)から重厚なサウンドになっていく曲。歌詞通りの壮大さと儚さを金そろえたボーカル、またそれを力強くサポートするアレンジは、聴いていて歌詞が意味するものをナチュラルに伝えている。歌詞と楽曲がもっとも上手く重なっている曲であろう。
13.カーテンコール 80点
バンドサウンドが淡々と小気味良いリズムを打ち、サビでは特徴的なリズム展開が続く曲。また全体的にアレンジ部分の音が大きめになっており、ボーカルが目立つことがあまりない。後半のサビ半音アップは終盤に向けて面白いつくりとなっており、アルバム全体を明るく締めくくっている。
全体感評価:
通して聴いてわかったことは、それぞれの曲が「Story」を持っていることである。2のように人に向けたポジティブな曲でも、3,12といった世界に向けた曲であっても、それらの本質、全てが奥底でつながっている印象を受ける。歌詞、音楽的なルーツからそういうことになったのだろう。それらが作り上げたのは、流れや全体感においてまったく問題がない完璧なものである。これほどまでに全体感が丁寧に作り上げられているものは今までかつて見たことがない。
総評:
メジャーデビューしたばかりの新人とはとても思えない完成度を誇るこのアルバム。ボーカルにおいては、基本的に明るく、伸びやかな声質でありながら、強弱やメリハリといったものは当然、曲にあわせたスケール感や緊迫感、切なさであったり、明るさであったりと表現力に長けた技術力を持っている。そのボーカルが歌い上げる曲も収録曲全てが80点以上という通り外れがない。当たり障りのない普遍的なものではなく、伝統的音楽の影響を受けながらそれに独自の表現、トッピングが加えてある曲たちは全てがオリジナリティの塊である。多くの曲に隠されている独特の展開であったり、様々な楽器を見事に駆使したアレンジが曲の持つスケール感を増幅させるものになっていたりなど、曲を構成するもの全てにおいて、その部分にその音が存在するべき理由、またその音である理由が感じ取れるのである。まさに適材適所。サウンド構築の全てにおいて意図が伝わってくることから、帯書きにある「13編の物語」の根幹が見えてくる。
おそらくそのことから、聞き手が聞いた感覚の行き着く先は、殆ど同じものになるのではないだろうか。
それを見出すものはサウンドであったり、歌詞であったり、歌唱であったり、メロディーであったりと、それを見つけるまでの入り口は無数にある。親しみやすく、惹きこまれやすいながら、それでいて深遠。
それらの点から、このアルバムは一種のコンセプトアルバムといえるのではないだろうか。
メンバーそれぞれの個性が上手く交わり、表面的にはフォークが基調でありながらもジャンルレスであるといえる今作。是非一人でも多くの人に聴いて欲しく、また万人に進められる一枚となっている。